遭難 真の沢

きーちゃん

2010年08月04日 20:52

先日のお昼過ぎ、小屋のテラスで一服していた時のこと。

「チリンチリン」と森の奥から鈴の音が聞こえてきました。
熊除けの鈴の音。
(登山者だなあ)

耳を傾け音の方に目をやる…。

(走ってる…、流行りのトレランだなあ)

さして気にもせずボケッとしていました。


が、その登山者は森から姿を現すと更に走るスピードを増して、目をまん丸にして私の側まで飛んできました。

「き、きたづめさん!」


いきなり名前を呼ばれビックリ。

(えっ、俺のコアなファン?!)


息が切れて言葉にならないその人の格好は一目で沢登りのスタイル。
そして目を見れば私のファンでもトレランでもないことはすぐ分かりました。


「レ、レスキューお願いします!」

「えっ!!」


背筋が冷たくなったのは言うまでもないです。


ご存知のように立て続けの残念な遭難騒ぎで全国的に有名になってしまった奥秩父。

「また!」と思うのも当たり前。

落ち着かせて話を聞けば、今いる甲武信小屋に突き上げる沢、荒川最源流の「真の沢」での事故といいます。
私が6月に、隅田川アートプロジェクトの関係者、そして小屋の常連でもある友人を案内、遡行した真の沢です。

オーナーも居たのでゆっくり話を聴きました。こちらはいたって落ち着いて。

真の沢にある最大の滝、千丈の滝と真の沢出合いにある柳避難小屋の約中間部の悪場で同行者が滑落して右足靱帯を断裂、動けないでいるとの事。

食料や野営具を同行者に渡し、伝令者である本人は必要最低限の装備で小屋に来たとの事。

話を聴き、オーナーが埼玉県警に救助を要請しました。県警も背筋が凍った事だと思います。

本人と電話を代わり、名前、住所、事の詳細を話していました。時間をかけて綿密に。

聞けば食料や防寒は十分。歩くことは出来ないが数日間は大丈夫、足以外は問題ないとのこと。

ならばもう慌てることはないです。当事者の精神力と山救隊に任せるしかない。




その晩の内に救助隊は遭難場所にほど近い柳避難小屋に入ったらしく、次の日の朝6時には遭難者と合流。
ただ天気が悪くなかなかヘリは飛べず。
ヘリにてホイスト出来る場所まで遭難者を運び待機、昼過ぎの一瞬のガスの晴れ間を突いて無事に遭難者を搬送したと、午後二時位に山救隊隊長の方から連絡が入りました。何だか目頭が熱くなりました。


夕方、伝令に来た方から無事に下山したとお礼の言葉も添えて連絡は入り、次の日の朝、遭難された本人からもお礼の電話を頂きました。

奥秩父の参事から覚めやらぬ遭難は、結果として不幸中の幸いとして幕を閉じました。


今回の真の沢の事故に思うこと。

それは当事者2人パーティーの山に対する認識、行動です。
怪我や事故はいつでもどこでも起こり得ます。
それに対し慌てず(勿論普段通りの精神状況ではなかったろうけど)に状況把握し、先ずは怪我をした仲間が数日間独りで生き延びる為の施し、救助要請の際に場所を的確に伝えられるよう地図や地形の把握、救助に来る隊のために付けたマーキング、そして一番近いと思う場所への素早い伝令。
全てが冷静に、かつ確実に動いている。
しかし、本人がどの様な気持ちでこの小屋に駆け込んだかは文頭で分かると思います。

救助隊長から電話をいただいた際、短い時間での会話。

「まったくよ、今年は参ったな」

と隊長さん。その通りだと思います。

「でも一人じゃなくて良かったよなあ、一人だったらアウトだったぜ」

入渓者の少ない真の沢では…本当に…。


伝令に走った方の行動は見習うべきだと思いました。沢や岩場だけでなく一般的な登山道でも起こり得る事故。
それに対する知識や行動は、イメージ、想像だけでもしておくべきです。
それが山に対する謙虚な気持ち、=発つ前の最低限の緊張感。
この少しの緊張感は日帰り山行でもハイキングでも必ず携帯しなくてはならないものです。
私自身改めて痛感しました。




え〜、ちなみに、小屋に駆け込んだ際に私の顔見て名前を呼んだその方。
私のファンではなく、1ヶ月ほど前に小屋に宿泊し、しかも一緒に仲良く話をしたからでした。

いや、しばらくして思い出しましたが…。

…まったく俺って…。

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